・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(本棚の外から一切の物音が消え、暗闇の中では視点の主の息を潜めたスローな呼吸音だけが繰り返される)
ゴオ・・(室内及びその周囲から誰もいなくなったと判断し、口を覆っていた右手をそのままの向き(つまり手の甲側)で、この重量のある本棚を軽々と押し上げる)
ズズズ・・(右手と腕の側面で本棚を支えて出来た隙間より、背中を床にスライドさせながら器用に外へ身を乗り出していく)
ゴッ・・ズズズ・・(半身が外に出たところで本棚の支える手を握り拳のまま左手に交代させ、左腕の側面のみで本棚の重量を支えつつ、少し体を起こしながら全身を外に脱出させる)
スッ・・ガオン・・(自由になった右手で斜めになっている本棚の底を持ち上げ、左腕を抜き、慎重に床に下ろす)
・・・・・・・・・・・・・・(一瞬間を置き、再度、今の音で周囲に異変がないか聴覚で確認をいれる)
スッ・・ふぁお・・(右手を胸の位置まで上げ、握り拳の力を緩めて隙間を空けると、中から光蟲の発光が仄かに辺りを照らし出す)
・・・・・・・・・・・・・・(予想通り、周囲を確認すると書庫に着いた時と同じ物静かな環境に戻っている)
ふぁらっ・・・(頭上より灰の切れ端が落ちてくると、空気に振れるやいなや目の前で微塵のロストと化してしまう)
フッ・・(視点の主が微笑を浮かべたようだ。先程は茂みに隠れたことで体に草木が付着し、今度は灰に塗れている自分に対し、哀れみを込めた自虐的な笑みなのだろう)
バサッバサッ!!(その感情を振り切るように纏っている白装束の汚れを落としながら着衣の乱れを直す)
・・・・・・・・・・・・・・・(今一度、右手の灯りで壁際の本棚(倒れている壁面を除く三方向)を照らしていくも、やはり「生きている本」は一冊も見当たらない)
ガサッ・・ファコッ・・(懐からマッチ箱を取り出し、お役御免の光蟲を丁重に家の中へ帰してやる)
ザッ・・(暗がりの中、それを懐にしまいながら、ここは既に用済みと判断し、颯爽とドアの方へ向かっていく)
Recollection No.1_29
ギィ・・・・・・(右肩で出発地点である倉庫の扉を押し開けて中に入る)
♪~~~~~~~(空いた扉の隙間から、こちらには気づいていないボリスが口笛を吹きながらワイン木箱をご陽気に漁っているのが見える)
ジーナ「手を貸してもらえませんか」(その声にハッと気づき、咄嗟にこちらを振り向くボリス)
ボリス「書庫に行ったんじゃ・・って、おい!なんだそいつは!?」
ジーナ「顔を見られそうになったのでやむを得ず」ドサッ(白装束を纏った男を仰向けに地面に下ろす。駆けつけてくるボリス)
ボリス「こいつぁ・・ジェファソンじゃねぇか・・。やむを得ずって・・あんた、こいつに何をしたんだ?」(ボリスが片膝をついて見下ろす男の両目は潰れたように焼け爛れ、濁った色の血涙が痛々しく両頬まで垂れている)
ジーナ「処理をお願いできますか」(ボリスはそれとなく指で胸の上に十字を切っている)
ボリス「悪い奴じゃなかったんだがな・・。ツキがなかったようだ。任せときな。あんた同様、大タルの中に隠して外街で処分するさ。それより、あんた帰りはどうするんだ?良かったら「乗せて」行くぜ」
ジーナ「明日までここにいるのは危険です。ご心配なく。頃合いを見て抜け出します。それより、あなたこそ、食堂にいたのでは?」
ボリス「ああ。バーニーを足止めするはずが盛り上がっちまってな。あの野郎、俺を正式な輸送隊長に命名してくれるってよ。と言っても、今までと何も変わらねぇただの運び屋だけどな」(と言いながらも顔は心から嬉しそうな表情をみせている)
スリスリ・・(そのままボリスはニコニコしながら右手の人差し指にはめている角ばった無骨な作りのシルバーリングを撫でている。こちらの記憶が正しければ、先程まではそのようなリングははめていなかったはずだが・・)
ジーナ「その指輪は?」
ボリス「ああ・・これか?ルチアの野郎が昇進祝いだってよ。趣味なんだよ、鉱石からシルバーを作るのが。いつかあいつの返済が終わったら、二人で都市にでも行って、アクセサリーの路上販売なんてのいいかもな」ハハッ(と指輪に気づいてくれたことに嬉しさを隠せず、儚い中年の夢を語りだす)
ジーナ「そうでしか。それは何よりの吉報で。それでは私からも・・祝辞と言ってはなんですが、これを・・」(懐に手を入れる)
ボリス「ん・・ああ、今回のリワードのことか。それならもう十分だぜ。俺も久々に興奮できたしよ、あんたが来なければバーニー達と今宵、こうして共に分かち合うこともなかったんだ。気にしないでくれ」
ジーナ「そうはいきません。せめてこれをお試しになられては?」スッ・・(右手に例の小銃型注射針を取り出して見せる)
ボリス「・・なんだそいつは?残念だが、俺は人体を破壊しかねない「強度」の高いブツはやらねぇようにしてるんだ。特に直に注入するようなやつは・・」
ジーナ「そう言わずお試しを」ガッ

ボリス「いてぇ!!や、やめろ!!」グッ!!(腕を払おうとするもジーナに掴まれたまま微塵も動かすことができない)
ブシュウウウウウ!!(首元に注射針を刺し、一気に薬物を注入していく)
ボリス「ひぃっ!!!!」(甲高い声をあげながら身震いをみせる)
ジーナ「一般的に強靭な体を持つあなたがどれだけ耐えられるか・・この薬は古来、竜大戦時代より・・・」(目の前では説明などそっちのけのボリスがガクガク震えながら見る見るうちに顔色が紫に染まっていく)
ボリス「カハッ・・・・ゴプッ・・・」ブクブクブクブク・・(口から赤紫の泡を吹き出す)
ドテン・・(鈍い音と共に頭から斜めに倒れるボリス)
ブクブクブクブク・・(小刻みな痙攣をみせながら仰向けに倒れるボリスの顔色は紫に染まり、顔と首には脈々と流れる無数の血管を浮かべている)
ジーナ「やはり駄目でしたか・・。これに耐えられればあなたを我がギルドにお迎えしたのですが・・・少々残念です」ブシュウウウウウ・・(薬物の残りを自身の決まった場所(左腕の肘裏)に注入する目の前では完全に息絶えて逝くボリスの亡骸が)
ズルズルズルズル・・・(それを見届ける間もなく、ボリスが頭部にかぶっているフードの先端を強引に引っ張り、荷物が並んでいる方へ雑に引きずっていく)
バコン

グオッ!!(後ろを振り向き、引きずってきたボリスの遺体を両手で引っ張り上げるように軽々と持ち上げる)
ドサーーーーーン

ザッザッザッザッ・・・(振り返り、今度は横たわるジェファソンの遺体の方へ淡々と歩いていく)
ガッ・・ズルズルズルズル・・・(同じ要領でジェファソンを大タルが陳列している方へ引きずっていく)
ドサーーーーーン

ぽいっ・・グンッグンッ

ガンッ!!(その上から蓋を叩きつけるように閉める)
ムオン!(背を向き、大タルを難なく背負う)
ジーナ「また彼らに処理をお願いすることにはなってしまいますが・・・致し方ありません」ザッザッザッザッ・・(大タルをおぶりながら倉庫のドアへ向かっていく)
ギィ・・(左肩でドアを押し開け、顔を出して回廊の左手を確認する)
ダッ!!(誰もいないことを確認するやいなや、大タルを抱えたまま目の前と中庭を隔てる低い塀を一気に飛び越える)
ダッダッダッダッダッダッダッ(月明かりを頼りに歌劇事件の夜同様、今ではただの雑草だらけになった中庭エリアを一直線に駆け抜けていく)
ダッダッダッダッダッダッダッ(目の前に領地との境界線を隔てる気持ち程度の木柵が見えてくる。おそらくはデーモンの代になってから作られたのだろう)
ダッダッダッダッダッダッダッ(闇夜に紛れながら木柵沿いの両端を確認すると、正門と思しき位置に松明の灯りが見え、そこに二人の門兵が立っているのが見える)
ダッダッダッダッダッ・・ブワッ!!(門兵の位置からではこちらは見えないと判断し、速度を上げながら木柵の方へ一気に疾走していき、軽やかな跳躍と共に木柵をクリアする)
ダッダッダッダッダッダッダッ(足場の悪い山岳道に出るも尚も一色線に駆け抜けていく)
ちら・・(そのまま後ろを振り返ると月光に照らされた朧気な白雪神殿の面妖な外観が浮世離れしたその存在感を放っている)
ダッダッダッダッダッダッ・・バッ!!(正面を向くと山道沿いに広大な山岳地帯の夜景が見えてくるも、そこに向かって一直線に駆け走り、迷いなく崖を飛んでいく)
ビュオオオオオオオオオオ!!
(大タルと中に入っているボリスの重量が加算され、その分落下速度が早まるも瞬きすることなく麓地点の森林を目視している)
バギャギャギャギャギャギャギャ!!(森林に突入し、木々の枝々と無数の葉っぱに全身を衝突させながら急降下していく)
!!(目の前に一段と太い枝が見える。視点の主の両腕は後ろの大タルに回したままである)
フオン・・・(瞬時に首を後ろに反らし、それをやり過ごす)
グルン・・(その反動を利用して大タルを背負ったまま宙返りすると、木々越しに夜空の幻想的な月の姿が一瞬だけ視界に映り込む)
シュタッ!!(回転を終えると同時に力強く着地に成功する)
タッタッタッタッタッタッタッ・・(行き着く間もなく屈強なモンスターハンターばりに漆黒の森の中を駆け抜けていく。それを見届けたかのように視界もまた通信を終えるようにブラックアウトしていく)
~翌朝、王都の外街、キングスラムウォール四番街....

ちゅんちゅん・・ちゅんちゅん・・
(穏やかな晴天の下、スラム特有の密集したバラックと雑多な風景「しか見えない」テラス席(日傘付き)にて、木製コップを左手に握りながらティータイムを過ごしている様子の一人称視点)
とっとっとっとっとっとっ・・(左脇に目を向けると、腰の曲がった全体的に「すごく低い」見るからに老いぼれたメラルーのマスターが実に美味しそうなチェリーパイ(「あみあみの部分は肉球柄」になっている)が乗ったお盆をガクガク震える両手で慎重に支えながら運んでくる)
メラルーのマスター「きょ、きょ、きょ、今日も、は、は、は、晴れて良かったですニャあああ」コトン・・(かすれ過ぎて聞き取るのが精一杯の声で説明決め込みながら、木テーブルの上にパイの皿をブルブル震えた猫手でやっとこさ置く)
ジーナ「本当に。眩しすぎるくらいですわ」(マスターの耳に絶対多すぎるほどのチップ(一枚の札を織ったもの)を挟んでやる)
メラルーのマスター「あや・・」(しょぼしょぼした目でどこか遠くを見ている)
ぐっちゃぐっちゃぐっちゃ・・(道の小脇で見るからにハングリーな野良犬たちが同じ所に群がり、我先にと何か肉らしきものを貪るように突いている姿が見える)
ジーナ「いつもお世話になっているお返しです」(ボケっとしながらこちらを呆然と見上げているメラルーマスターのよぼよぼな顔)
メラルーのマスター「・・・・・きょ、きょ、今日は、ちょちょ朝食をあげんでも、よよ良いようですニャ」にこっ(よぼよぼの親指を震えながらサムズアップしてみせている)
ぐっちゃぐっちゃぐっちゃ・・(口元を生血に染めた野良犬たちの隙間から、四肢をもがれた人体の胴体部と思われる肉片が垣間見える)
メラルーのマスター「ググ、グラッ、グラッチェリーパイ、ど、ど、どうぞ召し上げれ・・ニャあ」にこり
ジーナ「では、遠慮なく」カリャリコチョリ・・(優雅にフォークとナイフを使ってチェリーパイを切り刻む向こう側では鮮血滴る臓物を引っ張り合う犬たちの姿が)
To Be Continued

★次回ストーリーモードは5/16(木)0時更新予定です★