
保安官!!こっちこっち!!
と急かしているのは獣纏族のボワンドラちゃん。
現在、導きの地の氷雪地帯(あたち達はここをパークと呼んでいます)に通じるゲート(洞窟の通路。ここに税関を設置)で「税関職員」として働いているあたち。別に保安官というわけではないのですが、ボワンドラちゃんの「つぶらな瞳」には税関職員も保安官も同じように映っているみたいです。
そんな彼女は「フローズンカレッジ」に通う現役大学生。学費を稼ぐためにパークでアルバイトをしており、彼女が書いた論文、「大陸社会における自然科学の観点からみた獣人言語学」は非常に高い評価を得ています。そんな経歴から、彼女は他の獣纏族と違い、あたち達と同じ言葉を喋ることができ、多種族の言語も喋れるので、あたちのアシスタントをやってもらっているのでした(時給10Z。昇給、福利厚生あり)。
そんなボワンドラちゃんに何が起きたのか聞いてみると、
「通行止めなの!あんなんじゃパークにお客さんが入ってこれないわ

「落ち着いて、状況を分かるように説明してちょうだい」
と、高揚やまない彼女にアスピリンGを飲ませようとすると、彼女はあたちのお手を棍棒でおもいっきりひっぱたき
「どうせ保安官が持ってる薬なんてギャングから取り上げてきた極めて違法性の高いものでしょ!?黙ってついて来て!!」
と半分説教されながら今日も現場に直行。

ゲート内の中央に、落とし穴にすっぱりハマってしまった獄狼竜の姿が・・。確かにこれでは他のお客さんの迷惑になります。
「死んでるかも・・」
と呟くボワンドラちゃん。
確かにこの「すっぱりハマってしまっている獄狼竜」が死亡していようものなら、「事件性」も考慮しなければならなく、また、それはパークの評判にも大きく関わってきます。
「鼻提灯出てないみたいだけど・・・」
ボワンドラちゃんの言うように、モンスターの生存確認は「鼻提灯」で判断することができます。「睡眠状態ならば鼻提灯を出す」のがモンスターの特徴だからです。
「やっぱり死んでるかも・・。保安官、様子を見てきて」
と怯えるボワンドラちゃん。密猟者による仕業ならば、仕留めた後、「落としたまま放置」されていてもおかしくはありません。ギルドのライセンスを持つ狩人ならば、速やかに拠点の「処理班」と連絡を取り、ターゲットの後始末を行うからです。ましてや各フィールドに属するマフィア達の仕業ならば、彼らの抗争にも巻き込まれてしまう可能性もあります。
「とんだ厄介事にならなければいいけど・・」
と、すっぱりハマっている獄狼竜の近くに警戒しながら歩いていくあたち。
「どう?保安官?死んでる?」
と、やたらと「死んでる説」を押し通そうとしてくるボワンドラちゃんをよそに、獄狼竜の様子を見ると、確かに鼻提灯は出ていない様子。
「参ったわね・・ボワンドラちゃん。セリエナのガーディアンと処理班を呼んできてちょうだい・・」
と言いかけた途端、

「安心しろ。ハマってるだけで死んじゃいねぇ」
と、どこか寂しげな印象を放つ獄狼竜の背中が。
「ぎゃああああああああ!!生きてる~~~!!それはそれで超最悪なんですけどぉ~~~~!!!!」
と失礼極まりないボワンドラちゃんをよそに
「襲ったりしねぇよ。俺にはそんな気力が・・・ほっといてくれ。俺はもう牙竜としてやっていける自身がねぇんだ」
と、がっくし肩を落としたまま、穴にすっぽりハマっている獄狼竜の背中。
「エクスキューズミー。導きの税関職員の者です。なにかトラブルに巻き込まれましたか?もしそうなら、我々はあなたを救うことができるかもしれません」
とマニュアル通りにあたちが聞いてみると・・
「近づくな!!これは好きでやっていることだ!!」
と爆発するように龍属性エネルギーを放出させ、「穴にハマりながら」龍光まとい状態になる獄狼竜。
「ぎゃああああああああ!!虫きらぁ~~~い!!」
と獄狼竜に寄ってきた無数の蝕龍蟲を払いのけるのに必死なボワンドラちゃんはさておき、これ以上、彼を興奮させるのはまずいので、ひとまず落ち着かせることに。
「ミスター?とにかく訳を聞きます。アスピリンGはいりますか?」
と薬を手渡そうとすると
「お前みたいな女が持ってる胡散臭い薬物なんていらねぇわ!!」
と、あたちの顔面に蝕龍蟲を飛ばしてくる始末。
「ペッペッ・・なら、自分でその状態を解除できますね?そのままでは話をすることもできませんし、ギルドのハンターが駆けつけてくる事態になりますよ?」
と、口に入った蝕龍蟲を吐き出しながら説得してみると
「そりゃ好都合だぜ」
「どういうことですか?」
「フン・・あんたはハンターじゃねぇのか?」
と、赤黒い恐ろしいオーラを「ピシュピシュ」させながら聞いてくる獄狼竜の背中。
「セリエナのハンターです。現在は導きの税関職員としてあなたに話しかけています。ですが、あなたの対応によっては速やかにハンターモードに切り替え、即刻、この場で、あなたを討伐することも可能です」
「脅迫してるつもりか?職員を兼任しているあんたじゃ話にならねぇ。出直してきな」
「バカ言っちゃって!!保安官はセリエナでも名の知れたハンターなんだから!!あんたなんて保安官の「ビンタ一発」でおしまいよ!!さぁ、その薄気味悪い獄狼竜をやっちゃって!!保安官!!」
さすがにビンタでは対抗できないので、背中の大剣を抜こうとしたその瞬間、獄狼竜は龍光まとい状態を解除。
「これでいいか?ミス・・」
「あんまん。そう呼ばれています」
「嘘ばっかり。なんでそんなあだ名で呼ばれたいわけ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
だんまり決め込むあたちに獄狼竜が
「OK。ミスあんまん。どうして俺が「穴にスッポリおさまりながら塞ぎ込んでいる」のか教えてやろう」
顔を見合わせてホット一息するあたちとボワンドラちゃん。どうやら、自分がやっている行動は理解しているみたいです。
「あんたもハンターなら知ってるだろう・・・今現在の狩人達が何に夢中なのか・・」
「そんなの決まってるじゃない。元気タピオカよ」
と現役大学生の観点で答えるボワンドラちゃんに対し、黙って首を左右に振ってみせる後ろ姿の獄狼竜。
「分かった・・・赤龍ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」こくり
と、しょんげり頷く獄狼竜の背中。
「赤龍?なにそれ?」
「ムフェト・ジーヴァ。最近、「流行ってる古龍」よ」
「へぇ、そうなんだ。それがこの牙竜となんの関係があるの?」
と無垢な学生感覚で直近の狩猟事情を聞いているボワンドラちゃんをよそに
「憎い・・・」
一言呟く獄狼竜の背中。
「俺は赤龍が憎い・・!!あいつさえ登場してこなければ、今もまだ、狩人たちは俺たち(獄狼竜)に夢中になっていたからだ!!なのにあいつ(赤龍)は、俺たちがこのパーク内に登場してきた一週間後に、まるで惑星外生物のように突如として出現してきやがった!!そして同時に人気もかっさらっていきやがったんだ!!見てみろ!!今じゃ、このパークだって、もぬけの殻だろうが!!」
ひゅうううううううううう・・・
落ち着いてパーク内を見渡してみると、アルバイトの獣纏族たちの姿しか見えません。
「そういえば、このパークが開演した当初に比べると、ここ最近はぜんぜん忙しくないもんね。あたし達も「基本おしゃべり」してるだけで時給が発生するから、なんとなくそれで良しにしてたけど・・・」
と心中を告白するボワンドラちゃん。
「だろ?パーク内のモンスター達のほとんどは、有給申請してバカンスに行ってる始末だ。だからだよ、ミスあんまん。俺は悲しいんだよ・・。獄狼竜ともあろうものが、わけの分からねぇ新人古龍に人気を取られちまったことが・・・」しくしく・・
「そのことがあなたの自尊心を傷つけ、自暴自棄になったあなたはわざと落とし穴にハマってみせて、パークの職員の気を引きたかった・・・そうね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」しくしく・・こくり
「・・・・・・・。保安官。あたし、ちょっと他のエリアに行ってビラ配ってくる」
「大丈夫。パークの人気は不滅よ。そのうち、狩人のみんなだって戻ってくるわよ。そんなもんでしょ?狩猟社会なんて」
「・・・・・・ミスあんまん・・・」
あ~~!!あそこに見えるのジンオウガ亜種じゃねぇ!?
おっしゃ!いっちょやってやろうぜ~!!
と、BC方面のエリアから狩人達の陽気な声が。
「聞こえたでしょ?相手してやったら?」
「・・・・・・よっしゃ!!すまねぇが、手を貸してくれねぇか!!」
と、入ったはいいが、一人で穴を抜けることができなくなっていた意味でも落ち込んでいた模様の獄狼竜をボワンドラちゃんと一緒に引っ張って外に出してあげました。
「ありがとよ!ミスあんまん!!」
すっかり生気を取り戻した息巻く獄狼竜。
「ちょっと待って」
「なんだ?早くしてくれよ!!俺は一刻も早くあいつらハンターの肉を喰らい、顔面を滴る血を拭いながら空に向かって吠えるといった「牙竜っぽいカタルシス」に浸りたいんだ!!」
なんて物騒なことを言う彼にあたちは気になっていたことを質問してみました。
「あなたが入った、その落とし穴・・・自分で設置・・掘ったの?」
「いや。最初からここに落とし穴が設置してあったんだ」
「最初から・・?」
「ああ。そうだ。もういいか?そしたらあいつらをぶっ殺してくるぜ!!オラァあああああああああ!!!!!」
と俊足モードで次々とハンター達を抹殺していく獄狼竜を遠目に考え込むあたち・・。
「保安官?なにか問題でも?」ぎゃあああああああ(狩人の叫び声をバックに)
「ううん・・・。今日はあたちは罠を設置していない・・。あなた達もでしょ?」グシャ~~ン!!グシャ~~ン!!(必殺のパンチで次々とミンチにしていくゴアな効果音だけが)
「うん。だって「ずっとおしゃべり」してただけだもん」グッチャグッチャ・・(食べているのであろう)
「・・・・・・・・・(その回答に少し疑問を覚える顔を見せながら)問題は何者かが、落とし穴を設置したこと・・。そしてその罠を設置した者は、おそらくあの獄狼竜が抱えている問題を事前に知っていて、罠を置いたのよ」
「なんのために?」
「パークを困らせるため・・・」
「え・・?」
グッチャグッチャと隣のエリアで血肉貪る獄狼竜が、鮮血塗れた実に恐ろしい笑顔で、その爪に狩人の遺骸を突き刺したままこちらに向かって手を振ってくれていました。
「なんて考え過ぎね。さ、穴を埋めるのを手伝ってちょうだい。落っこちて怪我人でも出たら、それこそパークの評判ガク落ちでしょ?」
「それじゃあ他のみんなも呼んでくるね!どうせやることなくて、そのへんをウロウロしてるに違いないんだから♪」
と、なんだかモフモフしたボワンドラちゃんの背中を見送り、ぼっかりと空いた落とし穴を見つめるあたち・・
「一体誰が・・・・」
ワオ~~~~~~~~~ん
牙竜っぽいカタルシスに浸った獄狼竜の遠吠えだけが、ゲート内に虚しく響き渡ってくるのでした・・。
To Be Continued....
■現在連載中のモンスターハンター:アイスボーン(MHW:I)の狩猟日記はこちらから
■MHW:I 狩猟日記~観察記録のやり方と記録の提出の仕方
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んで、いつまでこの税関シリーズ続けるつもりなんだ?