「モンスターハンターになるためにはどうすればいいの?」
子供の好奇心から生じる希望的観測というのは本当に恐ろしいと思う。
目的の為なら世界がどうなってもいいと本気で思ってしまうからだ。
私はその願いを叶えてしまった。
だから今、私は世界の頽廃を担う首謀者として、大陸から追われる身になっているのかもしれない。
Recollection No.2_03
初めて耳にしたモンスターハンターに関する「あれやこれや」を生物学者達から聞いた私は、すっかりその「魅力的なジョブ」に魅了されてしまっていた。
ジョン・アーサー曰く
「今の君の腕前なら即戦力してすぐにでも活躍できるだろう」
とのこと。
純粋無垢な「辺境の子」相手に、大の大人がもう少し上手な「褒め称え方」を思いつかなかったもんかね・・。
というわけでまんまとその賛辞のお言葉を本気で受け止めてしまった私の返答が冒頭の台詞というわけだ。まったくもってあのときの自分の頭を大剣の柄で小突いてやりたい。そりゃ~今も同じくらいピュアではあるが、あまりにも普遍的な子供らしい稚拙過ぎるリアクションが実に腹立たしい。
そんな超絶かわいいアクラの少女の質問に対し、ジョン・アーサーは真摯にその淡い憧憬を受け入れてくれた(今振り返れば彼もまた「情熱だけは子供にも負けてませんから」的な姿勢を実直に貫いていたのだろう。そしてその性質が彼の致命的な弱点となっていた)。
アーサーは次のように答えてくれた。
「我々と一緒に都へ行き、私が直々に大長老に推薦すればその願いは叶うだろう」
おそらくこんな分かりやすいスカウトをあの年齢であんな真面目な顔した「一応」ちゃんとした大人から受けたのは私が最初で最後だろう。
もちろん、都というのはドンドルマで、大長老というのが「あのでっかい竜人のおじいさん」であることは言うまでもないが、その頃の「田舎娘過ぎる私」は知る由もなかった。
それを聞いた私はジョンの手を引っ張り、「そう遠くはない」ゲルに一同を連れて行った。
ゲルの中でいつものようにぬくぬくとしていた両親は突然の、しかも大勢のゲストに驚く間もなく、私の「ワガママ演劇」を見させられる羽目になる。
ジョンは真っ先にその空気を感じ取っていたのだろう。改めて私にした話を両親にしてくれとお願いすると、きょとんとしている両親の前に正座をして、先程自分が目の当たりにした「撃退劇」と、それを演出した「超絶凄い少女」がモンスターハンターとして立派に通用するということを簡潔に、端的かつ誠意を込めて熱弁を振るった。
そして両親もまた自分の娘が「予想通り」スカウトされたのだと瞬時に悟った(両親が私の才能を誰よりも知っていたからだ)。
瞳をキラキラさせながら、彼らと一緒に三人で都へ行くことを懇願する娘に対し、ただ黙って俯く両親の心情を悟ったかのようにジョンは私に向かってこう言った。
「自分たちは三日後にアクラを出るので、それまでによくお父さんとお母さんと話し合いなさい」
ジョンは子供の私がそう簡単には譲らないことは分かっていた上で、敢えて私を通じて両親に助言したのだと思う。
そして彼らはその言葉を残し、自分たちのベースキャンプへと戻っていった。
その後、両親は興奮してやまない私を落ち着かせると、なぜ一緒に都のある大陸(旧大陸(昨今では現大陸とも)。まだこの頃は旧・新の区分がなかった)には行けないのか説明してくれた。
シュレイドでの迫害から逃れるため、泣く泣くアクラへと移り渡り、そして私を生んでくれたことを...(そしてまた、この亡命中に母の容態が悪くなってしまったことも)
子供の私でも両親が海を渡って「向こうの大陸」に戻れば、再び危険が待っているかもしれないということは簡単に予想できた。
なので私は落胆する間もなく、罪悪感に苛まれる両親に向かって
「そっか。少し残念だけど、お父さんとお母さんが危ない目にあうのなら、モンスターハンターはあきらめるね」
とだけいい、その晩は床についた。
ちょっとだけ辛かったけど、両親がこのアクラで幸せならそれで良かった。
私にとって両親の幸せも大切だったからだ。
それに「もう少し」大人になれば、一人でアクラを出ることを両親がきっと許してくれるだろうと思っていた。
だが私の願いは思わぬ形で実現されることになり、結果、この晩が両親と共に過ごした最後の夜となる。
翌朝、目覚めるとゲルの中に父の姿はなかった。
父がどこに行ったのか母に聞いても、背を向けたまま調理台に向かいながら「採取に行ったのよ。すぐに帰るから心配しないで」と、いつものように咳き込みながら言うだけだった。
間もなくして母の予言通り、父は帰ってきたのだが、どういうわけかジョン率いる調査団もまた一緒であった。
そして寝ぼけ眼の私に向かって父はこう言った。
「さぁ、オクサーヌ。大陸を羽ばたいて来なさい」
何が起きているのか、さっぱり理解できない私のもとに今度は母が来て、お弁当を手渡してくれた。そして私はすぐにそれが、先程から母がせっせとこしらえていたものだと悟る。
「あなたにとっては初めての航海になるでしょうからね。酔い止めになる薬も一緒に入っているけど、あなたには必要ないかもね。だってあなたは強いから」
そう言うと母は、黙って優しくハグしてくれた。
「え・・え・・・・じゃ・・じゃあ・・・・・」
「大陸一のモンスターハンターになりなさい。お前にならきっとできる」
そう言って母と一緒に私を抱きしめてくれる父が目に涙を浮かべている姿を見たのは、あのときが初めてであった。
「ありがとう。お父さん、お母さん」
こうして私は大好きな両親にお礼と別れを告げ、ジョンと共に海を渡り、モンスターハンターになった(アクラを去る前、私が荷造りをしている最中、両親とジョンが何やら話し込んでいる姿を見たのだが、おそらくこのときの会話をジョンが手記に書き留めたのだろう)。
私が両親との別れより自分の気持ちを優先してしまったのは、あのときはまだ、いつでもアクラに帰って来れると思っていたからだった。
しかし、この願いこそ、叶わぬ夢であったのだ。
以下は後に「アクラ探索記」によって知らされた真相である。
既にジョン達、「余所の大陸から来た調査団」がアクラに来ていたことを知っていた父は、彼らのベースキャンプも当然「おさえて」いたという(もちろん、母と私を守るために)。
彼らの存在を知った時、父の脳裏にある危惧が走る。
彼らが「娘の才能」に気づけば、娘は間違いなくアクラを離れるだろう・・と。
そしてその予見通り、娘はその調査団達をゲルに連れてくる。
内容は予想していた通りだった。
狩人として天賦の才能を持つ我が子をずっと見守ってきた両親は、遅かれ早かれ、この日が来ることを心の何処かで覚悟していたというのだ。
私がジョン達をゲルに連れてきた翌朝、父は自ら調査員のベースキャンプに訪れ、「娘を頼みます」と頭を下げたという。
ジョンが誠心誠意の対応をみせると父はひとつだけ彼に約束をさせる。
娘は間違いなく大陸全土で名を馳せるモンスターハンターになるだろうから、親である自分達の所在だけは誰にも明かさないで欲しいと強く願い出たという(理由にはついては言及しなかったようだ)。
(後に破られることになるこの約束なのだが、)この慎重な態度からもみても、両親が当時のシュレイドをどれだけ恐れていたかが見て取れる。
そしてまたこの忌々しい虐殺事件さえなければ、私は両親と一緒に暮らしながらモンスターハンターをしていたのではなかろうかという儚い夢も抱くのであったが、運命は私を嘲笑うかのように弄ぶ。
運命?
詩的な表現ではない。
何故ならば、強欲の化身には「運命の戦争」という別名もあるからだ。
いずれ私もまた、シュレイドの因果に巻き込まれることになるのだが、それはまだもう少しあとの話....
その前にメサイアの妖精伝説についてお話ししよう。
To Be Continued

★次回ストーリーモードは11/29(木)0時更新予定です★