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Channel: あたちのモンハン日記
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Recollection No.2_06

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ヒト科も含めた動物は、恐怖と対面した際、本能的な闘争或いは逃走反応の選択に迫られる。


そのストレス反応はどんなに卓越した狩人であろうが、修練を積んできた戦士にも起こることであり、時にその急性ストレス反応が過覚醒、所謂「火事場の馬鹿力」などを引き起こすとも言われており、ハンター諸君であるのならば、敢えて説明する必要もないと思う。


ではハンターズギルドでも「選りすぐりの」狩人たるギルドナイトならどうであろうか?


常軌を逸し、人智を遥かに超えた「龍の力」を持つ者と対峙した場合、彼らはどんな反応をみせるのか・・


私はそれを誰よりも知っている。


さて、偉大なる「龍の友」より、その聖なる血を授かった私だが、休む間もなく次なる試練が襲いかかるのだが・・ちょっと待って。


試練?


確かにそう呼べるかもしれない。


けど、あれは明らかにあいつらの犯した罪であって、私は被害者に過ぎない。


試練は別のところから投げかけられていたのだ。


結論からいえば、私はその試練を受け、良い方向に自分を向けることが出来なかった。


その判断が盟友との袂を分かつ長い別れになるだろうと分かっていたにも関わらず、私は報復の道を選ぶ。



復讐



この怨嗟の想いをすべて果たした時こそ、私の願いは叶う。







Recollection No.2_06







「オクサーヌ!!我々はあなたを迎えに来た!!さぁ、こちらへ!!」


聖痛に身を委ねる私の背後から男の声が聞こえてきた。


妖異な赤紫の雷土に照らされながら振り向いた私の顔は紅血に染まり、さぞパラノーマルな姿に見えただろう。


少しだけ粘性を帯びた祖龍の血に染まった「前髪越し」に見えたのは、男女のギルドナイトであった(とは言うものの正直、私自身もこの時が初めてギルドナイトを目視した瞬間であったのだが、彼らの出で立ちがよく聞く都市伝説に合致していたのと、自分のシチュエーションを考えれば、それがすぐにギルドより私に向けられた刺客であることも検討がついた)。


振り向いた私の異様な姿を見た彼らのリアクションはごく「一般的」で、当たり前だが私が想像もしていない形相だったのだろう。なので私から率直な答えを言ってあげた。


「ごめんなさい。あたしはもうギルドには戻れないの」


この時、だいぶ距離を空けて向き合っていた彼らの瞳に映るおどろおどろしい姿の自分が見えると同時に、視力が異常なまでに発達していることにも気づいた。


「ほら!!あの子はもう人である道を自ら閉ざしたんだ!!」


そう叫ぶ女のナイトは私の姿を見て「そう」決めつけたらしい(間違ってはいないが・・)。


「判断するのはまだ早い!!」


フォローするならちゃんとしてもらいたいものだが、まぁ、この男のナイトが女の方よりかはインテリジェンスであること、そしておそらくリーダーであることが窺えた。


私は後ろを振り向き、「白いオトモダチ」にこう告げた。


「大丈夫。あなたが手を降す必要はないわ。だって、あたしの意志は既にあなたにあるのだから」


私を少しだけ心配そうに見下ろす祖龍の悲哀に満ちた真っ赤な紅玉のような瞳に白いドレスを着た少女の姿が投映されると、ふと、このドレスをくれた母の姿が脳裏をよぎった・・。


「お母さん・・・何してるかな・・」


次の瞬間であった。


右目の眼孔奥底から、得体の知れない疼きが蠢き出す。


「ギルドを裏切るつもりか!?」


状況を察したのだろうか、男のナイトが理性的な声を荒げながら私の背中に実直な言葉を投げかける。


「そんな単純な問題ではないの。だからお願い・・。早く帰って・・!!」


徐々に増していく右目の痛みを抑えるように蹲りながら返答する私に対し、男は続けてこう言った。


「君をギルドに預けることを許してくれた、両親に対しても、同じことが言えるのか!?」


「どういう意味・・・・」


予想だにしなかった質問に対し、一瞬だが痛みを忘れた私は息を切らせながら聞き返した。そして男は衝撃的な答えを口にする・・



「ご両親は亡くなった。正確には・・自殺したのだ」



頭が真っ白になった。



男は静かに語りだす。



「俺達に任務が下った・・。君の両親を人質に、なんとしても、メサイアの妖精を取り戻せとな・・・。だが君のご両親は人質にされると察するや否や、我が子である君の迷惑にならぬよう・・自ら極寒の氷海へと身を投げたんだ・・」


右目の痛みがまるで私の心情に同調するかのようにその激しさを増していく。


「おそらくは、母上の容態が芳しくなかったことも、二人を自殺に追いやる要因になったのだろうが・・・すべては君の未来の邪魔立てにならぬよう、身を投げたのだ!!それでも君はギルドを裏切るというのか!?」


この時初めて分かった。


痛みの原因は両親の死であったのだ。


私は決断する。



血みどろになった顔をお母さんが作ってくれたかけがえのない白いドレスの純白の袖で拭い去る。



「あたしの未来はギルドにはない。そうお父さんとお母さんが言っている」



そう告げて振り返る私の姿が男女の瞳に映り込む。


そこに映っていた私の右目は妖炎凄惨な真紅に染まり果て、宿怨を誓う邪神の如くとぐろを巻いた鏖殺の烈波を滲み出していた。


男のナイトが私の剣幕に怯む。


同時に恐怖心を感じた女のハンターが牙を剥いてきた。


「虚仮威しだよ!!これでも喰らいな!!」


彼女は片手に持つ三本のナイフを標的目掛けて投げ飛ばす。


私は瞬時に周囲を見下ろす。


自分の「位置を変えず」左手が届く範囲には「偽の」祖龍素材から自作した大剣が地面に突き刺さっており、同じく右手の届く範囲には先程、祖龍の眉間を貫いた忌まわしい矢が落ちている。


「よせ!!」


その男の静止を呼びかける声が相棒に投げかけられたものなのか、それとも私に対して発せられた警告なのか考える間もなく、私は本能的に大剣を左手に取り、向かってくる「殺意ある」ナイフをガードしながら、地面に落ちている矢を投げ飛ばした。


白い甲殻から作られた大剣の刀身に三本のナイフが、鈍い金属音をたてながら次々と弾かれていく。


「まだっ・・!!」


女のナイトはすぐに第二射目のナイフを取り出す。


だがその女の闘争心は次の瞬間、息をつく間もなく静まり返ることになる。


その女は私の「フォーム」を見て、なにかに気づく。


私の右手が何かを投げた後の体勢であることを確認した女は、慌てて隣にいる相棒に目を配る。


時すでに遅し。


ゆっくりと後ろに倒れる男の眉間には、先程自分が放った矢が突き刺さっていた。


結果、先程、男が止めようと呼びかけた叫びは、我々二人に向けられていたことになる。


「エト・・・?」


男の名前なのだろうが、私にはあまり記憶にない。


再び落雷がフロアを穿つと同時に仰向けになって倒れるエトというギルドナイト。


「エトーーーーーーーーー!!!!!」


女が名前と共に慟哭をあげる。おそらくは「想いのある」男だったのだろう。


「だから言ったろ・・・・感情に身を任せるだけではダメだと・・・」


男は眉間にしっかりと矢を突き刺したまま、生死の境目を彷徨いながら譫言のように何か呟いているように見えた。


「喋るな!エト!!」


女が男のもとに駆け寄る。


男は女に何かを言い残そうとしているが、女はそれどころではなく、狩猟社会から学んだ応急処置を必死に試みようとしている。


「駄目だ!!ああ・・クソーーーーー!!!!!」


当たり前だ。すでにその男は終わっているのだ。


男は女に遺言を残すと朽ち果てた。


女はその男がいなくなって初めて自分の想いに気づいたのだろうか、その無くなった存在がもう二度と帰ってこないことを悟りながら悲痛の叫びをあげていた。そしてその悲痛な姿は、同じく両親を失った私の心の投影にも見えた。


フロアの中心で落雷の逆光を受け、恋人の躯を抱きかかえながら慟哭をあげるギルドナイトのシルエットが浮かび上がる。


私はそれを見届けると女に告げた。


「帰りなさい。そしてもう二度と、ここへは来ないで」


祖龍のもとに歩いていく私に向かって女は叫んだ。


「貴様・・・ナイトに手を下したのだぞ・・!?これが何を意味するか・・・・分かっているのかぁああああああああ!?」


再び雷光が落ちる。


閃光が止む頃には女の姿はなく、そしてまた男の遺体もなかった。


私がそれを呆然と眺めていると祖龍が語りかけてくれた。


「私に代わり、その小さな手を穢したというのか?」


その言葉を聞き、少し安心した。


彼は私の行動を少なからずとも理解してくれていたから・・。


「ギルドはあなたを狙っている。多分、今の人達は、あなたの実存確認と同時に、あたしを使って、本当はあなたを討伐させたかったのだと思う。だからあたしは、ギルドよりも先に、祖龍と呼ばれるあなたに逢ってみたかったの・・。けど・・・その私のワガママのせいでお父さんとお母さんが・・・・・」


私が泣き崩れると祖龍の声だけが聞こえた。


「お前の痛みは私の痛みでもある。忘れるな。同志よ」


すると彼は、おそらくその大きな顔で小さな私を慰めるようにそっと触れてきてくれた。


彼の想いが余計に辛かった。


私はなんとか涙を堪えながら同志と呼んでくれた友達に自分の思いを告げた。


「これであなたとは一緒に行けなくなってしまった・・。人を殺めてしまった女の子なんて嫌でしょ?それにあたしにはやらなくてはいけないことが出来てしまったの」


「報復か?」


「・・・・・ごめんね、わがままで・・・」


私は白い友達の少し硬い鼻先を抱きしめた。


「痛くなかった?おでこ・・」


私が顔を見上げると、そこには傷ひとつないパールのような光沢感と輝きを放つみずみずしい白い鱗に覆われた祖龍の大きくてあたたかい顔があった。


それを不思議そうに私が眺めていると祖龍は


「断罪は己で下すものではない。汝が再び、私を望むのであれば、オクサーヌ・ヴァレノフよ。その時は共に戦おうぞ」


そう告げると祖龍は、その美しい白い翼から綺羅星の様な粉塵を振りまきながら天空へと帰っていってしまった。


私はその別れの煌めきを全身に浴びながら、空を見上げ、ただ嗚咽することしか出来なかった。



「私は穢された・・・両親を殺され、祖龍との未来をも断たれた・・・。
だから私は絶対にハンターズギルドを許さない」



怨恨の決意と共に深紅に蠢く右目が、人としての私に決別を告げる。


そして私は報復に現れるであろうナイツとの全面戦争に備え、一人、古塔の頂上に残るのであった・・・。



To Be Continued






★次回ストーリーモードは12/10(月)0時更新予定です★








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